休眠の深い水稲種子に適した浸種方法

タイトル 休眠の深い水稲種子に適した浸種方法について説明いたします。
近年の地球温暖化への懸念が高まる中、出穂後の高温登熟による白未熟粒の増加に伴う玄米品質低下が問題となってますが、種子に関しても、出穂後の高温により休眠が深くなると指摘されています。
新潟県の水稲種子においても、登熟期の高温が続き深刻な品質低下が発生した平成22年産の種子は休眠が深く、発芽不良を引き起こした事例が生じています。
出穂後の高温により、種子の休眠が深化。 そこで平成23年に、県主要品種であるコシヒカリBL、早生のこしいぶき、酒米の五百万石の3品種について、当センター産の原種を用いて発芽率を比較しました。
収穫2か月後に50℃での乾熱処理による休眠打破を、無処理、2日、4日、6日、7日と処理日数を変えて行いました。
その後に発芽試験を行った結果、コシヒカリと五百万石で比較的休眠が深く、無処理の場合は正常発芽率が50%前後と低い値でした。
品種によって異なる発芽の特性 この休眠の深さは穂発芽性と、まったく同じではありませんが、似た特性を示す傾向があります。
県奨励品種では主に、五百万石とコシヒカリが休眠が深い品種であると考えられます。
なお、長期貯蔵した後の発芽能力、これは浸種水温が低い場合に現れる発芽阻害についてですが、それと休眠との関連性はないようですので注意してください。
現在知られている休眠打破の方法 この休眠を取り除く方法としては、主に3つの方法が知られています。
一つめは乾熱処理で、通常の生産物審査における休眠打破方法としてよく用いられています。
育苗における実用レベルでは、育苗器の蒸気で乾熱処理する(農研機構)等の技術がありますが、作業として一手間かかる部分があります。
二つめは薬品処理ですが、1規定の硝酸に24時間浸漬することで休眠打破されることが知られています。
これは生産物審査で補助的に利用される例はありますが、実用化の例はあまりないようです。
三つめは浸種による方法で、これは実際に生産現場で実施されている作業であり、休眠に関与するとされる植物ホルモンのアブシジン酸を洗い流すことで休眠を打破すると考えられています。
浸種期間のめやすは積算水温100℃・日、水温10℃であれば10日間になりますが、知見は今から30年前のものが主で、まだはっきりとわかっていない部分も多く、休眠の深い品種や年産によっては、発芽不良やばらつきが発生しています。
調査材料 そこで今回は、浸種の水温と期間が発芽に及ぼす影響を詳しく調査しました。
調査材料として、新潟県の主要品種の中で休眠が問題となりそうな3品種を用いました。
原種として栽培・収穫して、40℃以下の熱風による機械乾燥、8割程度の歩留まりで選別調製した種子を材料としました。
調査は、まだ休眠が残っている状態の翌年1月に実施しました。
浸種方法 浸種方法ですが、まずは各品種の種籾を100粒ずつお茶パックに入れたものを3反復用意します。
浸種水温は5℃、10℃、12℃の3水準として、浸種期間は積算水温60℃日〜140℃日の範囲で調査しました。
なお、3日に1度水を替えています。
浸種終了後は、加水したシャーレに置床して、照光・25℃設定の定温器で発芽させました。
2日後に芽が出た籾の数を発芽勢、7日後に正常な芽と根を有するものをカウントして正常発芽率としました。
調査のねらい この調査のねらいですが、まず5℃の浸種水温は、長期貯蔵種子では品種によっては発芽阻害を引き起こしますが、休眠の深い種子でも発芽に抑制的に働くかを検討しました。
また10℃と12℃の浸種水温では、どれだけの期間が休眠打破に効果的かについて、適切な積算水温を探索しました。
調査結果1 発芽勢(置床2日後) 置床2日後の発芽勢を品種毎にグラフに示しました。
青の折れ線が5℃で浸種したものですが、発芽勢はどの品種も低く、積算水温を長くしてもほとんど変わりませんでした。
緑の折れ線の10℃浸種では、コシヒカリとこしいぶきでは、長く浸種するほど発芽勢が向上しました。
赤の折れ線の12℃浸種では、各品種ともに、長く浸種することで発芽勢が向上しました。
調査結果1 正常発芽率(置床7日後) 次に、置床7日後の正常発芽率について説明します。
5℃浸種では、コシヒカリは100℃・日までは発芽率の向上がみられますが、それ以上では向上せず、140℃・日になるとコシヒカリと五百万石では逆に下降してしまいました。
10℃浸種では、各品種ともに期間を長くするほど、発芽率は上昇しました。
12℃浸種も同様の傾向で、コシヒカリと五百万石では120℃・日、こしいぶきでは100℃・日でほぼ上がり切った状態まで向上しました。
これらの結果から、休眠の深いコシヒカリと五百万石の種子は、120℃・日が休眠打破に最適であると考えられます。
育苗実証試験(津南町) 次に、実際の育苗管理でも効果があるかを、作物研究センターと現地とで調査した結果について説明します。
コシヒカリと五百万石について、現地試験では浸種期間を慣行より2日長くして、緑化後の苗の一部を計測しました。
調査結果2 床土による育苗での緑化時の正常出芽率 緑化時に芽の長さが6mm以上の個体の割合を、出芽率としました。
その結果、4月の育苗時期の調査なので休眠がある程度醒めており、コシヒカリでは浸種期間による差はありませんが、
五百万石では120℃・日にすることで、出芽率の向上が確認できました。
まとめ 最後にまとめです。
まず休眠の深い種子、コシヒカリは年次によって深い年がありますので、初春の農業革新支援担当からの情報を参考にしてください。
また、五百万石は早生で高温で登熟することが多いため、年次にかかわらず休眠が深いと考えられます。
これらの休眠の深い種子では、浸種水温12℃、積算水温120℃・日、つまり12℃であれば10日間浸種することで、発芽率が向上します。
また水温が10℃に下がると発芽率がやや下がりますし、5℃の低水温では期間を長くしても休眠打破効果が期待できませんので、加温装置のない浸種槽では、浸種水温が低下しないよう保温するなどしてください。
水稲長期貯蔵種子の発芽特性…参考として、1年以上貯蔵した種子についてですが、この場合休眠の影響はありません。
また、浸種水温が10℃を下回ると発芽が大きく阻害されることが知られています。
浸種時の水温は10℃未満にならないように注意してください。
さらに、5℃程度の低温で浸種期間が長くなるとさらに発芽率が落ちる恐れがあります。
浸種期間は5日で十分ですので、浸種水温が低いからといって期間を長くすることは絶対に避けましょう。

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